会社法人が破産・倒産したら社長・代表取締役の責任はどうなるか

文責:所長 弁護士 菅沼大

最終更新日:2025年01月07日

 自らが経営している会社の経営が行き詰まり、倒産やむなしとなった場合には、多方面に迷惑をかけることになってしまいます。

 倒産の際には、社長としてどのような責任を負うことになるのかを知っておき、事前にできる限りの対処法を考えておきましょう。

 ここでは、会社などの法人が破産したときに、代表取締役をはじめとする役員が負うべき責任について解説します。

1 会社が破産したら社長や役員はどうなる?

⑴ 会社が破産したら役員も自動的に破産するわけではない

 会社は、法人の1つです。

 法人とは、法律上の人格を与えられた組織や団体のことです。

 法人を作れば、法人自体が財産を所有することができますから、個人の財産と法人の財産を明確に区別できるというメリットがあります。

 会社が借金をした場合、それは会社という法人の借金です。

 法人の借金を、役員などの個人が返済する必要は、原則としてありません。

 会社が借金を返せなくなり、破産しなければならなくなったとしても、個人である社長や役員の財産には直接的な影響はありません。

 法人と個人の財産は別だからです。

⑵ 会社の保証人になっていれば借金を一括返済しなければならない

 会社の財産と個人の財産は区別されていますが、会社の破産が社長の財産に影響するケースは実際には多くなっています。

 というのも、会社の社長は、会社の借金の保証人や連帯保証人になっているのが普通だからです。

 社長が会社の借金の保証人になっている場合には、社長の立場としてではなく、保証人の立場として、返済の義務があります。

 社長が保証人になっていても、会社が借金を返すことができれば、社長は返す必要はありません。

 しかし、会社が破産すれば、会社は借金の支払いを免除されることになり、保証人である社長のみに支払い義務が残ってしまいます。

 さらに、会社の破産により、本来であれば分割払いできた借金も、「期限の利益」を失い、分割払いできなくなってしまいます。

 つまり、会社が破産すれば、社長は会社の借金の一括返済を要求されることになります。

⑶ 借金を返せないなら社長も会社と同時に破産申し立てする

 中小企業が金融機関から資金を調達するときには、社長が会社の保証人になることを要求されます。

 つまり、ほとんどの会社では、会社の借金の保証人は、社長になっているはずです。

 もし会社が倒産した場合、金融機関は当然ながら社長に借金の返済を要求します。

 しかし、会社が倒産するような事態になっていれば、社長個人も借金を返せないのが普通でしょう。

 社長が返済義務を逃れるためには、社長個人も破産申し立てをしなければなりません。

 こうしたことから、中小企業の会社と社長とは、セットで破産申し立てをするのが一般的となっています。

 特に、会社は破産申し立てをせず、社長のみが破産申立てすることを、裁判所は認めていません。

 会社が倒産したら、基本的には社長も破産することになると考えておいた方がよいでしょう。

2 会社の破産で社長や役員が損害賠償責任を負うケース

 たとえ会社が破産したとしても、保証人になっている場合を除き、社長や役員個人が何らかの責任を負うことは原則としてありません。

 しかし、例外的に、役員が会社の破産について、損害賠償責任を負わされることがあります。

 役員が損害賠償すべき相手としては、2つのパターンがあります。1つは会社、もう1つは債権者などの第三者になります。

⑴ 役員が会社に対して損害賠償責任を負う場合

 株式会社の取締役等の役員が任務を怠ったときには、会社に対して損害賠償しなければなりません(会社法423条1項)。

 任務を怠ることを「任務懈怠」といいます。

 役員の任務懈怠が原因で、会社が倒産に至ったときには、会社は任務懈怠した役員に対して損害賠償を請求できます。

 ①任務懈怠に該当する例

 どんな場合が任務懈怠になるのかの判断は、簡単ではありません。

 条文や裁判例などから、役員の任務懈怠に該当するとされていのは、次のようなケースになります。

 ア 利益相反取引

 取締役が株主総会(または取締役会)の承認を受けずに利益相反取引をし、会社が倒産した場合には、取締役に任務懈怠があったとされます。

 利益相反取引とは、会社の利益と取締役個人の利益が対立する取引で、株主総会の承認が必要とされています。

 たとえば、会社の財産を取締役が相場よりも安い値段で譲り受けると、会社にとっては損、取締役にとっては得になるため、利益相反取引になります。

 株主総会の承認を受けずにこのような取引をした取締役は、任務懈怠とされてしまいます。

 イ 違法配当

 会社が剰余金の配当をするときには、法律で定められた分配可能額を超えることができません。

 分配可能額を超える剰余金の配当を行った場合には、違法配当となり、違法配当を行った役員は任務懈怠があったとされます。

 ウ 善管注意義務・忠実義務違反の場合

 会社は取締役に業務を委任し、取締役は会社の業務を受任している関係です。

 民法上、委任契約の受任者には、善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する「善管注意義務」があるとされます(644条)。

 取締役が業務を行うときにも、善管注意義務があることになり、善管注意義務に違反すると任務懈怠となります。

 また、会社法では取締役には法令、定款、株主総会の決議を守る「忠実義務」(355条)があるとされています。

 忠実義務に違反しても、任務懈怠とされることになります。

 では、どのような場合に善管注意義務や忠実義務違反となるかですが、裁判実務では「経営判断の原則」を基準に判断が行われています。

 取締役は、そもそも会社から経営判断を任されている役職であるため、単に判断ミスがあっただけでは任務懈怠とはなりません。

 任務懈怠となるのは、経営判断の前提となる事実を見誤っていたり、経営判断の過程や内容があまりに不合理だったりした場合になります。

 ②取締役の損害賠償責任は役員責任査定で決定

 取締役の損害賠償責任を追及する場合には、一般に、株主による株主代表訴訟が行われます。

 しかし、会社が既に破産手続き中の場合には、株主代表訴訟ができません。

 そもそも、会社が破産していれば、取締役は会社に対してではなく、破産管財人に対して損害賠償する義務を負うことになります。

 破産手続き中の会社の取締役の責任をどうするかは、破産法で定められている「役員責任査定」という裁判手続きで決めることになります。

 取締役は、役員責任査定で裁判所が支払いを命じた額を、破産財団に対して支払うことになります。

⑵ 債権者などの第三者に対して損害賠償責任を負う場合

 ①悪意・重過失の行為により第三者に損害を与えた場合

 会社の役員が職務を行うときに悪意または重大な過失があったときには、それによって第三者に生じた損害を賠償しなければなりません。

 役員に悪意・重過失の行為があり、これによって会社が倒産した場合には、役員は債権者などに損害賠償しなければならないことがあります。

 ②第三者に対して損害賠償責任が発生する例

 役員が第三者に対して損害賠償責任を負うとしては、役員が不正行為や違法行為を行っていた場合、会社の財産を私的な目的で使い込んだ場合、虚偽の決算書類を作成して粉飾決算していた場合などがあります。

3 会社の破産で役員が財産を返還しなければならないケース

⑴ 破産管財人が行使できる否認権とは

 破産管財人は、破産手続き中の会社の財産の清算事務を行うために裁判所によって選任された人です。

 破産管財人には、「否認権」という権限があります。

 否認権は、破産手続き開始前の破産者の行為を無効にできる権限です。

 破産管財人が否認権を行使できるのは、破産者の行為が、債権者に損害を与える場合になります。

 たとえば、会社が破産申立て直前に会社の不動産を誰かに譲渡している場合、破産管財人は否認権を行使し、譲渡を取り消して財産を取り戻すといったことができます。

⑵ 代表者に移した財産は返還を要求されることがある

 会社が破産申立てを行う前に、会社の財産を少なく見せかけるため、会社の不動産を代表者名義に変更するようなことはよくあります。

 このような場合、破産管財人から否認権を行使される可能性があります。

 もし否認権が行使されたら、社長は不動産を会社に返還しなければなりません。

4 会社の破産手続き中に役員が注意しておかなければならないこと

⑴ 引っ越しや長期の旅行の際には裁判所の許可を受ける

 個人が自己破産した場合、長期間家を留守にしてはいけないという制限が設けられます。

 破産手続き中は、勝手に転居したり長期の旅行に行ったりすることはできません。

 やむを得ず長期間家を開ける場合には、裁判所の許可を受ける必要があります。

会社が破産した場合には、取締役等の役員が同様の制限を受けることになります。

 つまり、自分が取締役になっている会社が破産した場合には、勝手に長期間留守にすることはできないということです。

⑵ 債権者集会には必ず出席する

 会社の破産手続きでは、債権者に対して説明を行ったり債権者の意見を聴いたりするために、債権者集会が行われます。

 破産した会社の社長は、債権者集会が行われるときには必ず出席しなければなりません。

 社長は債権者に対して必要事項を説明しなければなりませんが、弁護士が代理人となっている場合には、弁護士が説明を行ってくれます。

5 会社破産をご検討なら当法人へ

 会社が破産・倒産するときには、実質的に会社の問題だけで終わらず、取締役をはじめとした役員にも影響が出ます。

 役員は自らが破産しなければならなかったり、損害賠償責任を負わされたりする可能性がありますから、注意しておきましょう。

 会社など法人の破産は、事前にしっかり準備をして臨むことが欠かせません。破産・倒産の危機が迫っているなら、早急に弁護士に相談し、最善の対処法を考えましょう。

 当法人には、債務整理・法人破産の実績が豊富な弁護士がいます。

 それぞれのご相談者様の状況に合わせたアドバイスをすることが可能ですので、どうぞお早めに来所ください。

 法人破産のご相談は原則相談料無料となっております。

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